ACSシリーズです。
前壁中隔心筋梗塞の心電図判読に続き、
下壁心筋梗塞の心電図判読の方法を解説していきます。
がんばっていきましょう。
イントロ
やはり大事なことは、まず判読の型を作ることです、
「型通り」の判読となるように、繰り返していきます。
流れとしては、
各誘導と、その誘導が眺めている心筋の局在をしっかりと押さえます。
そして梗塞に陥った心筋の局在化から、解剖学的知識を用いて、
冠動脈の閉塞部位と灌流域を推測します。
つまり、誘導から心筋、心筋から冠動脈という流れです。
誘導→心筋→冠動脈
誘導から心筋。
そして、心筋から冠動脈、です。
誘導→心筋
誘導と心筋局在を結ぶのが
誘導くん
です。
勝手にわたしがつけた名前です。
誘導くんは、
どの誘導がどこから心臓を眺めているか
言い換えると、
どの誘導が心臓のどの部位を眺めているか
を教えてくれます。
誘導くんからわかる
誘導と心筋の関係を表にまとめました。
この表は
「丸暗記」してもいいと思います。
誘導くんからの得られる誘導と心筋の関係性を
エコーなどでみる心臓の短軸像と無理やり関連付けたのがこの図になります。
3次元を無理やり2次元に落とし込んでいるので、
あくまでも参考程度にしていただければと思いますが、
実臨床の心電図判読では、この図だけでも十分に役立ちます。
心筋→冠動脈
次は、心筋と冠動脈の関連です。
今回の下壁心筋梗塞では、特に右冠動脈の走行を知ることが重要となります。
右冠動脈は、大動脈から分岐した後、右房と右室の間の溝、右の「房室間溝」を通り、
左の「房室間溝」まで到達し、回旋枝とゴッツンコします。この経路の途中で、重要な枝を分岐します。
一つが
右室を栄養する血管
でもう一つが、
左室を栄養する血管
です。
右室を栄養する枝は
「右室枝」
と呼びます。
左室を栄養する枝は複数あります。まず、右室と左室の間の溝である「室間溝」を、心基部から心尖部に降りていく
「後下行枝」
です。この血管は下壁中隔や下壁に還流します。
そして後壁や側壁に還流する
「後側壁枝」
です。
後下行枝も後側壁枝も大きさは人ぞれぞれです。左の房室間溝から流れてくる回旋枝や、前室間溝を通り心尖部を回って後室間溝に流れてくる前下行枝との関係性が影響しています。
近位部で右室枝を分岐し、
遠位部で後下行枝や後側壁枝を分岐します。
模式図で記載すると、
上図のようになります。
一般に、
・右室枝より先を「遠位部」
と呼びます。右室枝が分かれ目になっています。
ざっくり判読法
ここまでの知識から判読法が完成します。
この判読法は
「ⅢaVFⅡ誘導でST上昇をみつける」ことで始まります。
このときに、ⅢaVFⅡ誘導の対面にあるaVLⅠ誘導で鏡面像の確認を済ませてしまいましょう。
そして、step1で
右室梗塞の有無
を確認します。右室梗塞は、予後に影響する合併症であり、そして、左室の心筋梗塞とは初期対応が少し異なります。したがって、はじめに鑑別を行っておくことが重要です。心電図では、
右室を眺めているV4RもしくはV1誘導においてST上昇がないか、
を確認します。
次に、Step2で
左室梗塞の範囲を同定
します。
右冠動脈の分枝は、下壁や後壁、そしてときに側壁まで還流します。灌流域が広いほど、血栓閉塞した場合に梗塞心筋は広範囲となります。まずは12誘導心電図で確認できる
V5-6誘導、言い換えれば側壁誘導でST上昇がないか
確認します。もし側壁梗塞を認めれば、灌流の連続性から、自動的に後壁梗塞も起こしていることになります。
もしV5-6でST上昇を認めない場合には、後壁梗塞の有無を確認するために、
後壁誘導であるV7-9を記録する
必要があります。
ただし、救急の現場ではときに時間と人手が足りなず、後壁誘導を記録する余裕がない場合があります。その際は、
鏡面像を有効活用
してください。後壁誘導の対面はV1-3誘導になります。
V1-3でST低下を認めれば、後壁梗塞である可能性が高い
です。
模式的に確認しましょう。
心電図で右室を眺めているV3R-V4R誘導やV1誘導でST上昇を認めた場合には、
右室枝分岐前、つまり右冠動脈近位部で閉塞していることになります。
V3R-V4R誘導やV1誘導でST上昇を認めない場合には、
右室枝分岐後、つまり右冠動脈遠位部で閉塞していることになります。
右冠動脈遠位部では、
左室への灌流が大きく3タイプ
にわかれます。
まず、
下位側壁誘導のV5-6、後壁誘導であるV7-9でST上昇が確認できた場合には、下壁だけでなく、後壁、そして下位側壁まで梗塞に陥っており、かなり大きな心筋梗塞となってしまします。
次に、
下位側壁誘導のV5-6ではST上昇はなく、後壁誘導であるV7-9でST上昇が確認できた場合には、下壁と後壁が梗塞に陥っており、中等度の心筋梗塞となります。この時、下位側壁は回旋枝から還流されています。
最後に、
下位側壁誘導のV5-6でも、後壁誘導であるV7-9でもST上昇が確認できない場合には、下壁のみが梗塞に陥っており、下壁に限局した心筋梗塞となります。このとき、下位側壁や後壁は、回旋枝から還流されております。
以上が、下壁梗塞の判読法になります。
復習
では、復習していきます。
最後に実際の心電図を一つ、判読してみます。
空欄を埋めてください。
下壁誘導ⅢaVFⅡでST上昇を確認し、下壁梗塞確定です。
その上で、step1でまず予後に影響し、左室の心筋梗塞と初期対応が異なる「右室梗塞の有無」をまず鑑別することが重要でした。V3R-4RやV1のST上昇を確認します。
step2では、左室の梗塞範囲を同定する、つまり右冠動脈がどの程度左室心筋に還流しているか、その灌流域を確認します。V5-6誘導で下位側壁梗塞の有無を、V7-9誘導で後壁梗塞の有無を確認します。ちなみに冠動脈の灌流の連続性から、下位側壁梗塞を認めた際には、自動的に後壁梗塞は存在することになります。
こちらが解答になります。
空欄を埋めてください。
右室を眺めるV3-4誘導そしてV1誘導でST上昇を認めた場合であり、右室梗塞を起こしております。したがって、右室枝に血流が還流していませんので、右冠動脈近位部閉塞となります。
一方で、右室を眺めるV3-4誘導そしてV1誘導でST上昇を認めない場合であり、右室梗塞は起こっておりません。したがって、右室枝に血流が還流していますので、右冠動脈遠位部閉塞となります。
空欄を埋めてください。
右冠動脈遠位部では、左室への灌流が大きく3タイプにわかれます。
まず、下位側壁誘導のV5-6、後壁誘導であるV7-9でST上昇が確認できた場合には、下壁だけでなく、後壁、そして下位側壁まで梗塞に陥っており、かなり大きな心筋梗塞となってしまします。
次に、下位側壁誘導のV5-6ではST上昇はなく、後壁誘導であるV7-9でST上昇が確認できた場合には、下壁と後壁が梗塞に陥っており、中等度の心筋梗塞となります。この時、下位側壁は回旋枝から還流されています。
最後に、下位側壁誘導のV5-6でも、後壁誘導であるV7-9でもST上昇が確認できない場合には、下壁のみが梗塞に陥っており、下壁に限局した心筋梗塞となります。このとき、下位側壁や後壁は、回旋枝から還流されております。
こちらが解答になります。
では、心電図を一つ判読してみましょう。
ⅢaVFⅡでST上昇を認めます。下壁梗塞確定です。
まず、すべきことは右室梗塞の合併の評価でした。
V3R-4Rがないので、V1で代用しましょう。V1誘導でST上昇はありません。右室梗塞はないと推測します。冠動脈の閉塞部位は、右冠動脈遠位部となります。
次にすべきことは、左室の梗塞範囲の同定でした。
下位側壁誘導V5-6ではST上昇は認めません。下位側壁梗塞はないと判断します。後壁誘導V7-9はありませんので、鏡面像を利用します。後壁誘導V7-9の対面にあるのは、V1-3誘導です。これらの誘導でST低下を認めますので、後壁梗塞はあると判断します。
以上より、本症例の心電図からの読み取れることは、
・下壁及び後壁心筋梗塞
・右冠動脈遠位部閉塞
・右冠動脈は、下壁・後壁に還流する中くらいの灌流域をもっている
ということです。
どうでしたか?ばっちりできましたでしょうか?ちなみにこの判読法で「右冠動脈遠位部閉塞」と判読した場合は、可能性としては、「回旋枝の遠位部閉塞」の可能性もあります。この鑑別を更に深める鑑別法もありますが、感度がそれほど高いものではなく、臨床のアクションもほぼ変わらないので、扱わないこととしました。
まとめ
以上、下壁梗塞の心電図判読法でした。
身につけるには、繰り返しの判読演習が必要です。判読演習はdrillで準備しておきますので、こちらで一緒に頑張りましょう。
演習に行く前に必要な知識として、
誘導と心筋の関係性
を覚えておくことです。具体的には、
・ⅢaVFⅡは下壁を眺めている
・V7-9は後壁を眺めている
・V5-6は下位側壁を眺めている
という事実です。そして、判読の流れとしては、
・予後に大きく影響を与える右室梗塞を始めに鑑別し
・次に左室の梗塞範囲を同定する
ことを覚えておいてください。
下壁梗塞の判読はこの判読法で必要十分ですので、復習がんばってください。では、今回はここまで。お疲れさまでした!
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