心房粗動、わかりにくいのでまとめてみた!
結構長くなってしまったので、少しずつ読み進めてください💦
心房粗動の名称
atrial flutter
AFLと略されます。
「atrial fibrillation(心房細動)の略称」であるAFと間違えやすいので注意です!
afとかAfなどの表記はもうなくなりました。たぶん。。。
AFLとは
AFLは上室性不整脈の一つです。
もう少し詳しく言うと、
・洞結節由来の心房興奮ではなく(洞性P波はなくなります)
・心房内に形成された電気回路をぐるぐるまわり続ける興奮旋回(リエントリー)という現象(これにより規則正しい鋸歯状波が生まれます)を持った
・上室性頻拍症
です。
その旋回頻度は約300/分ということが知られています。
ちなみにこれ↓が鋸歯状波になります。
たしかにのこぎりの刃(鋸歯)のようにぎざぎざしていますね💦
300/分であることを確認してみましょう。
AFLの心電図所見
診断の条件は、
- P波がない
- 鋸歯状波@ⅢaVFⅡ
- 房室伝導比を様々にとる
です。
心房に関する項目
1と2は心房の現象に関する事項です。
鋸歯状波は言い換えると、等電位線がないとも言えます。
ちなみに鋸歯状波の周期は、約300/分(200-400/分)と言われています。
房室伝導に関する項目
3は房室伝導に関する項目です。
心房の興奮は一定しております。ただしとても頻回です。
この頻度の興奮を心室に伝えてしまうと、心室が頻拍になってしまいます。
これは危険です。
そこで、神からの贈り物である房室結節が、
心房からの頻回刺激を適度に間引いてくれるのです。
その間引きは、症例ごとの房室結節機能や内服薬剤などに依存します。
間引きは整数倍で行われます。
よく
「N:1」
などと表現されます。
鋸歯状波の興奮周期が300/分であるとしましょう。
- N=1だと、心室レートは300/分
- N=2だと、心室レートは150/分
- N=3だと、心室レートは100/分
- N=4だと、心室レートは75/分
- N=5だと、心室レートは60/分
となります。
AFLに気づくきっかけ
心電図で心房粗動に気づくきっかけを考えてみました。
心電図を見たと、感じる「正常とはなんだか違うぞ?!」といった違和感のようなものです。
- 「なんかぎざぎざしてない?」
- 「等電位線なくない?」
- 「V1のP波多くない?」
- 「心拍数150bpmってAFLだよね?」
- 「心拍数300bpmで脈アリって、VTにしてはおかしくない?」
などでしょうか?
AFLは見逃されていることが多いので、
上記のような違和感を感じることで、診断に至ることになるかもしれません。
ぜひ、押さえておいてください。
AFLの分類
AFLの分類
心房粗動の分類は
- 通常型(common type)
- 逆旋回通常型(reverse common type)
- 非通常型(uncommon type)
通常型と逆旋回通常型は、CTIを含む電気回路を縦方向に電気興奮が旋回(リエントリー)します。
回路を回る向きで
- 通常型は反時計まわり(CCW: counter clockwise)
- 逆旋回通常型は時計まわり(CW: counter clockwise)
と分類します。
CTIとは?
突然、CTIという言葉が出てきましたので解説を追加しておきます。
AFLは、興奮旋回(リエントリー)をその機序としております。
通常のAFLのリエントリー回路には、CTIという部位を含んでいます。
リエントリー回路にCTIを含んでいるAFLを
と呼んだりもします。
いわゆる、
通常型AFL
ですね。
ちなみにリエントリー回路の大きさは
十円玉ぐらい
あり、直径2-3cmと言われております。
このような大きさのリエントリー回路を
マクロリエントリー
と呼んでいます。
AFLで意識する誘導
AFLで意識するべき誘導は、
- 下壁誘導
- V1誘導
- V6誘導
です。
下壁誘導
下壁誘導では、緩徐伝導(だらだらしたところ)を確認できます。
- 下にだらだら → 通常型
- 上にだらだら → 逆通常型
ただし、この緩徐伝導部分を確認できるのは、房室伝導比が高くないときに限られます。
ちなみに緩徐伝導は、以下の図の「青矢印」になります。
CTIを流れる電気伝導を指しています。
重要なので、改めて確認します。
上記左の右心房内の図において
青矢印が通過するしている部分は、
解剖学的峡部: CTI
と言われ、電気の伝導がゆっくりになる部分です。
そのため、電気伝導に時間がかかってしまいます(だらだら)。
さらに心臓を下から眺めている下壁誘導からみていると、
この青矢印の電気興奮は、遠ざかる向きになるため、心電図上では、
「下方向」
に振れる電気ベクトルとなります。
結果として、
「下にだらだら」
が完成するのです。
以下の心電図を見てください。
★
特にRR間隔が開いたところを見ていただくとわかると思います。
「下にだらだら」と下がっていますね。
ということで、通常型AFLである可能性が高まります。
V1誘導
V1誘導は心臓を右側から眺めている誘導。
通常型や逆通常型においては、
右房内リエントリー回路内の興奮旋回は縦方向が主であるため、
胸部誘導にはあまり反映されません。
一方で右房のリエントリー回路から電気を分け与えられて起こった左房内の電気興奮は、
水平面での成分があります。
通常型: 後方(左)から電気が入る
逆通常型: 前方(右)から電気が入る
そのため、
通常型: 左→右
逆通常型: 右→左
となります。
V1誘導では、
通常型: 陽性P波@V1
逆通常型: 陰性P波@V1
以下のAFLの心電図を見てください★。
V1誘導で、陽性波を認めます。
したがって、通常型AFLを強く疑います。
V6誘導
心臓を心尖部からながめている誘導。
下壁誘導と同様の所見になることが多い。
V1誘導と同様に考えます。
通常型: 後方(左)から電気が入る
逆通常型: 前方(右)から電気が入る
そのため、
通常型: 左→右
逆通常型: 右→左
となります。
V6誘導では、
通常型: 陰性P波@V6
逆通常型: 陰性P波@V6
以下のAFLの心電図を見てください★。
V6誘導で、陰性波を認めます。
したがって、通常型AFLを強く疑います。
AFLの心電図のポイント
心電図判読の際に確認しておくべきことは、
- 心房粗動であることの認識 →結構見逃されている
- 房室伝導比 → 臨床での対応が異なる
- 通常型 or 非通常型 → マニア?アブ医は気になる??
になります。
3については、上級者の方のみでOKです。
心内心電図を根拠とした分類を体表面12誘導心電図で完璧に語ることは、
そもそもムリゲー
ですよね!
あまりこだわると、沼にハマりますので要注意です。
臨床でのポイント
ありふれた上室性不整脈
よく遭遇する上室性不整脈です。
器質的心疾患がなくとも起こりえます。
これまたよく出会う上室性不整脈の心房細動と合併(20-80%程度)します。
つまり、心房細動と心房粗動を同じ患者さんに認めることは稀ではありません。
そのため、心房粗動とも心房細動とも心電図から言い切れない微妙な所見の場合には、
「心房粗細動」
と呼んだります。
房室伝導比による違い
房室伝導比によって循環動態が異なります。
こちらで↓演習してみていください!
薬物学的除細動の効果
薬物療法はあまり期待できません。。。
というか、状況を悪化させてしまうことすらあります。
AFLを抑え込もう(洞調律化を目指した)としたばかりに、AFLを暴れさせてしまう(頻拍が増悪してしまう)という結果になることがあります。
抗不整脈薬によって
という悪い結果に至ってしまうことがあるのです。
(粗動周期が延びることで、房室結節が不応期から脱してしまい、より高頻度で房室伝導を許してしまうのです。。。)
これは循環器内科医であれば、1度は経験したことがあるのではないでしょうか?
という理由で、
とりあえずレートコントロール(心拍調整)しておこう
という臨床判断になることが多いと思います。
また、どうしても洞調律化しなくてはならないという状況であれば、
電気的除細動
が適切な選択肢となります。
どうして薬物学的除細動は効果が期待できないのか?
リエントリー性の不整脈を停止させる方法として、
excitable gapの消失
という方法がある。
excitable gap = 興奮間隙
リエントリーの最後尾と最前面との距離
のことである。
通常、抗不整脈薬で
不応期延長を起こさせ、興奮間隙を消失させる(伝導途絶)
ことを目指すが、AFLでは抗不整脈投与により
伝導速度まで低下
してしまい、伝導途絶には至らない。
プラレールで例えるなら、
抗不整脈薬により
車両の長さを伸ばす
ことで、回路状線路内の走行を不可能にする(=回路長より車両のほうが長くなる)ことを狙うが、
抗不整脈薬により
回路長も長くなる
という結果となる。
結局、
長くなった車両が長くなった回路状線路内を走行する
ため、AFLは持続してしまうのだ。
※余計わからなくなった方、すみません。
薬物学的除細動を意地でも目指すなら。。。
どうしても、ということであれば
がポイントです。
Kチャネル遮断の方が有効なようです。
純粋なKチャネル遮断薬であるニフェカラントが有効のようです。
- 0.3mg/kgを10分かけて投与 → 10-20分で7割が停止
- 心房ERPが延長したことがその停止機序。粗動周期は延長しない。
Ⅰ群薬やアミオダロンは効果が薄いことから推察されるのは、
解剖学的峡部の不応期だけを延ばす
(Na遮断作用(=回路全体の周期を延ばす)はいらない)
ことが重要なようです。
ということで、AFLの洞調律化のための薬剤は、
- 静注ならニフェカラント
- 内服ならソタロール
となります。
AFLでも抗凝固療法は必要?
現時点では、
必要
という結論になってます。
その根拠は、
・健常者より脳梗塞の発症率が少し高い
・心房細動の合併が多い
などが挙げられています。
単純にAFにおけるCHADS2スコアを用いて、リスク評価を行い、抗凝固療法の導入を行うかは、まだ結論が出ていない部分でもあります。
心電図検定でのポイント
AFLを認識できる
AFLであることを認識できれば、2級までは十分なのではないでしょうか?
難易度を上げるとすれば、房室伝導比を1:1や2:1にして、鋸歯状波を認識しにくくしてくることが予想されます。
特に1:1伝導のために、変行伝導が生じることでwide QRSとなり、一見VTに見えることがあります。この場合は、鑑別が非常に困難となってしまいます。問題として作成するなら
2:1AFL with appearent F wave→1:1AFL with aberrant conduction
とするしかないように思えます。
実際、公式問題集に上記の出題様式の問題がありましたね💦
通常型と非通常型の識別
どこまで問われるのかわかりませんが、下壁誘導・V1・(V6)の所見から、
確実に診断できる
問題しかでないと思います。
こちら↓で演習してみてください!
今後深めたい関連事項
・心房粗動のカテーテルアブレーションについて
・ⅠA/ⅠC Flutter
・非通常型AFL
復習問題
・心房粗動は英語表記で( )と略す。
・心房粗動の心電図診断は、
①( )がない、②下壁誘導で( )を認める、③種々の伝導比
である。
・鋸歯状波があると、( )が確認できない。
・心房粗動は、( )と( )に分類される。
・鋸歯状波の周期は、約( )/分と言われている
・AFLは、( )、( )、( )に分類される。
復習解答
・心房粗動は英語表記で(AFL)と略す。
・心房粗動の心電図診断は、
①(P波)がない、②下壁誘導で(粗動波 F波)を認める、③種々の伝導比
である。
・鋸歯状波があると、(等電位線)が確認できない。
・心房粗動は、(通常型)と(非通常型)に分類される。
・鋸歯状波の周期は、約(300)/分と言われている
・AFLは、(通常型)、(逆旋回通常型)、(非通常型)に分類される。
参考
ガイドライン
・不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改定版)
youtube
心電図マイスターチャンネル
blog
LIFTL
★マークの心電図は以下より引用しています。
書籍
・不整脈治療薬ファイル 第2版
コメント